科学研究費補助金による研究

研究成果

創造的身体表現活動による態度変容と異文化理解
ー文化に固有な舞踊運動の体感を通してー

平成21年度~23年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(研究課題番号 21500553)

 日韓の舞踊専攻生の同国人とのデュエット、及び異国人とのデュエット時の体感から、同国人とのデュエットには最初からみられる身体的引き込み現象、間主観的な世界の成立は、異国人とのデュエットでは、その活動を積み重ねることにより、相手の呼吸を感じ、安心感、信頼感、一体感が生まれ、次第に身体的引き込み現象が生じ、間主観的な世界が成立してくることが明らかになった。ここに、創造的表現活動による異文化間の相互理解の一つの様相を捉えることができた。

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踊る技術の習熟と体感による舞踊運動の感情価との関係

平成15年度~17年度科学研究費補助金 基盤研究(B)(2)(研究課題番号 15300213)

 本研究は,舞踊運動における基本感情を検証して,舞踊の経験の有無,あるいは障害に関係なく踊ることができる基本感情を表す舞踊運動を作成し,踊る技術の習熟とその舞踊運動の感情価の体感との関係を明らかにし,今後の舞踊表現の指導に資することが目的であった。 そのために,予備実験から始め,まず,体感からみた基本感情の設定・8つの舞踊運動の策定・8つの舞踊運動の妥当性の検証・舞踊用語の選定を行い,それらを用いて,「同じ舞踊運動を繰り返し踊ること」を内容に取り入れた実験授業1を実施し,繰り返し踊ることによる舞踊運動の変容と体感の変化の関係をみた。実験授業2は,舞踊運動の指導を伴う内容での授業実践で,そこでは,授業に「同じ舞踊運動を繰り返し踊ること」を組み込むことの有効性が明らかになった。
 舞踊運動の変容を客観的にとらえるためにDLT法による舞踊運動の3次元動作解析を導入し,舞踊運動の解析の観点は他の運動とは異なる特異性があることが明らかになった。
 また,日本と中国の大学生を対象に,舞踊運動の体感比較を実施し,そこから体感には文化差や性差が存在することが示唆された。
 ここでの一連の研究を通して多くの多面的なデータを得ることができ,それらを元に主に舞踊学会で研究成果を発表してきた。しかし,得られた多くの成果を総合的に論議するのはこれからであり,そこでの論議の焦点は,舞踊運動の体感がもつ意味の探求にあり,舞踊運動の体感が現行指導要領にある「生きる力」,そして,次の指導要領に基本的な考え方として据えられる「言葉の力」をはぐくむ一つの具体的な方法であることを鮮明に浮かび上がらせることにある。

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参考ビデオ >悲しい >大きい >静かな >固い >厳かな >激しい >楽しい >やさしい

異なる感性表現に共通する基本感情の検証と異文化比較

平成12年度~14年度科学研究費補助金 基盤研究(C)(2)(研究課題番号 12610081)

 本研究の目的は、,舞踊,音楽(ピアノ),書という異なる芸術分野に共通する基本的感情検証と、日・韓・中の異文化間比較によりその基本的感情が文化を超えて共通であることを確かめ,それと同時に,それぞれの芸術や文化に固有な感情表現についても明らかにすることであった。 そのために、3つの評価実験を行い、その結果、次のような知見を得た。舞踊・音楽・書(漢字・かな)の3つの分野に共通する感情は「美しい」「きれい」「なめらか」「力強い(強い)」のみであった。3つの分野のうち,舞踊と音楽間では,例えば「楽しい」「悲しい」「こわい」など多くの感情が共通しているのに対し,書は,他の2分野と共通する感情が少なく、いわゆる「快・不快」の感情を表現(伝達)しにくい。しかし、かなの書では「悲しみ」の感情は表現(伝達)されており,かなの表現性(表現力)が漢字とは異なる点があることも示唆された。  異文化間比較では、各舞踊刺激、音楽刺激を視聴させ、その感情にふさわしい書をマッピングさせるという方法をもちいた。その結果、舞踊の場合のほうが音楽に比べ,「異文化的」な評価が少ない傾向がみられた。また,漢字とかなについては、漢字の方が,「文化差が小さい」ように見える。この点については、かなが我が国に固有の表現媒体であること,したがって舞踊なり音楽なりの感性的印象を評価する場合,漢字を用いるほうが「文化的共通性」を生み出しやすいことが推察される。  以上のような知見と同時に、本研究を通して「感性評価の異文化間比較」は,単に,学術的な研究の対象となるばかりではないことを再認した。たとえば日本の芸術作品の海外における評価が日本的な感性による評価と一致するものかどうか,換言すれば,日本において高く評価される芸術的表現が他文化において同一基準で評価されるかどうかという,実際的な場面にも応用が可能であろうと思われる。

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